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野鳥保護のための翻訳の奉仕活動

ーボランティア活動は自分自身をたかめた


 私が属している(財)日本野鳥の会翻訳ボランティア「アジアクラブ」が行っている鳥類を主とした自然保護関連の翻訳の活動を紹介します。
 アジアクラブの取組みには、翻訳だけでなく、国際会議のための資料作成や通訳・ホームステイなどの手伝い、加えて日本の自然を守るためのチャリティ行事バードソンへの参加、勉強会としての例会がありますが、ここでは翻訳の活動を取り上げます。
アジアの野鳥を守るために、1990年に発足しました。
 発足は1990年、「アジアの野鳥を守り、野鳥を通じて人間性豊かな社会をつくる。」ことを目的にして(財)日本野鳥の会保護部国際協力室のアジアクラブとしてでした。どうして「アジア」なのかといいますと、日本で見られる約580種の野鳥のうち、3分の1は渡り鳥であるといわれています。鳥には国境はありませんから、野鳥を守るためには日本国内だけでの保護では十分ではなく、その生息地や経由地の自然を守ることが必要で、そのためにはそれらの国々の状況を知り、それを伝えることができたらと思うのです。
 私は、かねて野鳥についてもっと知りたいと思っていて、ボランティア活動のかたわら学びたいと考え、参加しました。
「湿地」の大切さ
 皆さまはきっと、ヒマラヤ山脈を越えて渡ってゆくアネハヅルの大群の映像をテレビでご覧になったことがおありでしょう。白い嶺と広がる青空の美しい光景ですが、高空と強風のなかを飛ぶツルにとっては苛酷な渡りです。このことは、人工衛星を使って送信機をつけたツルを追跡するプロジェクトによって解明されたのですが、私は1993年春、アジアクラブ主催の例会で詳しく知りました。
 ツル類などの水鳥の生息地である「湿地」は、人間には利用価値のないものと思われ、改変されて畑地にされたりしてきました。湿地保護を目的とするラムサール条約への我が国の加入が関心を呼ぶようになってから新聞紙上に登場するようになりました。東南アジアの湿地を紹介する「湿地の恵み」は、アジアクラブが翻訳しましたが、翻訳にかかわった私たち自身が湿地の役割や大切さを学んだものでした。
60点を超える翻訳文献
 1991年から2009年までの間に、アジアクラブが翻訳した文献は、60点を超えます。
 翻訳作業をしていて、生きた野鳥を箱に詰めて外国に売る商売の実態を読み、衝撃を受けたこともあります。これは、1999年に「東南アジア野鳥取引の実態」(トラフィック・アジア原著。日本野鳥の会、野鳥保護資料集第12集)として出版されました。
 数年前には、風力発電施設に野鳥が巻き込まれる事故についての英米の先進的な研究論文を和訳しました。このとき、鳥の目の構造が分からず、ウェブサイトで調べるなど苦労をしましたが、インターネットの発達には感謝したものです。これは、他の資料とともに「野鳥と風車ー風力発電施設が鳥類に与える影響評価に関する資料集(野鳥保護資料集第21集)」として発行されました。
ロシア語、ハングルからの翻訳もある。厳密なチェックを心がける。
 翻訳に携わるメンバーは、現在、翻訳を職業とするメンバーも含めて40人ほどで、英語、ロシア語、ハングルなどの翻訳ができます。
 ロシアのクリリスキー自然保護区についての古い手書きを含む記録を、10年ほど前の混乱していたロシアの研究者から日本野鳥の会が手に入れ、ロシア語のボランティア数人が、まずパソコンでロシア語の入力をし、それを和訳する作業をして日露2か国語の記録を作成しました。これは、「野鳥保護資料集第15集」(2002年)として出版されました。
 翻訳の正確性にはとくに心がけ、3回にわたって必ず複数のメンバーが確認することとしています。日本語からの英訳は最後には、ネイティブ・チェックとして自然保護の専門家のアメリカ人の友人にボランティアでチェックしてもらっています。
最近の成果、日本の重要野鳥生息地白書の英訳
 この一年ほど9人のメンバーで、「IBA白書2007」の英訳の作業をし、つい先日、これが日本野鳥の会のウェブサイトで公開されました。
 「IBA」( Important Bird Areas 重要野鳥生息地)とは、文字通り、野鳥が生息する重要な土地ということです。皆さまも、たとえばトキの野生復帰のためには食物となる生物がいる田圃などが必要だということからもお分かりのことでしょう。
 IBAは、鳥類保全の国際的組織であるバードライフ・インターナショナルがそのパートナーである世界100か国以上のNGOと共に進めています。日本では、日本野鳥の会が基準に従って167か所を選定しました。アジア諸国では、日本だけに英語版がありませんでした。アジアクラブの翻訳で、その英語版を作成したのです(2009年12月10日公開)。
ボランティアは楽しい、人を高みへ導く道
 以上、ボランティアが行っているNGOの地道な活動の一部をお知らせしました。
 18年間ボランティア活動をしてきて、私自身が多くを学んだことを強く感じております。英文科卒でもない私が自然が好きだということから始めたボランティアでしたから、同じ単語を何度も辞書で調べて最適な言葉を探し、次第に全体を読むことも早くなったと思います。また、訳すことは元の文章を熟読玩味することですから、文献を丁寧に読み、自然保護についても理解が深まったのではないかと思っています。上述しましたように、翻訳の初稿から3稿まで真っ赤に見えるほどお互いに修正・加筆の朱を入れます。翻訳は間違っていなくても、分野が違えば使う言葉も異なることが多いのです。複数での作業ですから、用語、文体などの統一も必要です。これらの作業を通じて、相手を認め、自分が正しいと思うときには主張しますから、培ってきた深い信頼感があってこそできるのです。この人間関係もボランティアをすることで得た貴重なものでした。
 美濃部都政の下で女性初の民生局長となられたジャーナリストの縫田曄子氏は、その著書「情報との出合い」のなかで、「ボランティアの目的はあくまでも自己実現であって、自分の意思で何をしたいのかと考え、ボランティア活動を通じ、自ら学び自らの生活を充実されることが目的であってほしい」と書いておられます。私はそれほどの目的意識もなく、何か役立つことでもあれば位の気持ちで入りましたが、結果として、ボランティアは楽しい、ボランティアは自分自身をたかめる、ということは事実だと確信するに至り、ボランティアをしてきて本当に良かったと幸せに感じております。
2010.1.22 古川 セツ
http://homepage3.nifty.com/hoshoji/wbsj-bora/asia/asia/html
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